半島海獣「長崎」(上)

長崎の魅力

 長崎が観光地として人気があるのは知っていた。高校などの修学旅行の候補地として取り上げられることも多い。その理由は、特異な歴史とそれによって育まれた異国情緒あふれる土地柄であること、また昨今ではハウステンボスの人気によるところも大きいのだろうと何となく思っていた。先日、高倉健の最新映画『あなたへ』をDVDで見て、あの歴史によく出てくる平戸がどうも島らしいことに初めて気がついた。健さんは平戸へ行くのに海にかかっていると見られる橋を渡っていたのだ。私は長崎に行ってみたくなり、早速Google Earth で見に行った。

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 そして思ったのは、長崎の魅力はその歴史や文化もさることながら、地形に負う部分が断然大きいのではないか、ということである。長崎県の全体の輪郭は、なんとなくバラバラととっ散らかってまとまりがない、くらいのイメージしかなかったのだけれど、半島と島こそが地形の主体を成す、日本では珍しい県だと遅まきながら気がついた。         

 主体のひとつ、半島に関して言えば、長崎には主な半島が四つある。北部にひとつ(北松浦半島)、南部に三つ(島原半島長崎半島西彼杵半島)あるけれど、南部の三つの半島は元になるひとつの半島が三つに枝分かれしたようなものだ。したがって、長崎の九州本土に属している部分は大部分が半島と言っても過言ではなく、いわば半島の怪物のような形をしている。北に本土(※)最西端である北松浦半島、南東に火山で有名な島原半島、南西に長崎港を付け根に擁する長崎半島島原半島と反対方向に曲がっているのが西彼杵(にしそのぎ)半島である。この地域にはさらに、北松浦半島の東に東松浦半島まである。本来この海獣は双頭だったのかもしれないが、東松浦半島佐賀県に属している。

 このような日本では特異な地形のため、長崎県では海岸から15㎞以上離れた場所がないというからすごい。長崎県のHPによると「長崎県には、約4,200kmの長大な海岸線に82の港湾が点在しており、その数は全国の8.2%におよび全国有数の港湾県です。 県下13市10町の中で海岸線をもたないのはわずか1町のみであり、そのほとんどの中心市街地の前面海域は港湾となっており、市街地は港湾からなっているといっても過言ではありません」ということだ。この全国2位の海岸線の長さは、リアス式海岸が多いためでもある。

大村湾針尾島西彼杵半島

 大村湾は、長崎県本土の真ん中にある南北に26㎞、東西に11㎞の大きな湾だ。さらに北を針尾島という南北10㎞ほどの島で塞がれているので、湾というより湖に近く、滋賀県にとっての琵琶湖のような存在に近いのではないかと勝手に想像する。実際たいへん穏やかな湾らしく、「琴の湖(ことのうみ)」という別名もあるらしい。琵琶と琴とで似ている。形が似ているという説もあるそうだ。さすがに淡水ではないが、塩分濃度は外海より若干低いため、大村湾で養殖されている牡蠣はたいへん美味しいという。大村湾の南東部にある箕島(みしま)には、1975年に世界で初めて作られた洋上飛行場、長崎空港があり、1㎞ほどの橋で対岸の大村市と結ばれている。

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  大村湾を塞いでいる針尾島、といってもあまりなじみのない名前だけれど、ハウステンボスのある島、といえばピンと来る人も多いだろう。針尾島の本土寄りにあるハウステンボスの住所は、「佐世保市ハウステンボス町1-1」となっている。針尾島は、九州本土と西彼杵半島北部を結ぶ島でもある。この島と西彼杵半島西海橋(さいかいばし)で繋がったのは1955年、当時は東洋一、世界第三位の長さのアーチ橋だったそうだ。大村湾は穏やかな湾だが、それに対して外海との出入り口、西海橋のかかっている最峡部170mほどの針尾瀬戸は、渦潮が見られるほど潮の流れが速く、日本三大急流のひとつと言われているらしい。そのため、西海橋ができるまで西彼杵半島陸の孤島だったそうだ。しかし、西海橋開通により、今や西彼杵半島北部を占める西海市は、県の地域区分で佐世保を中心とする県北地域に分けられるまでになっている。西海橋からハウステンボスまでは若干5㎞ほどだ。

島原半島諫早

 島原半島の東の海岸線は、大小いくつかの弧が重なり合って出来ているように見える。中心の山々からなだらかな斜面が広がる、いかにも火山の活動によってできた半島らしい。近づいて見ると、山岳の外側では無数の細い尾根や谷筋(川)が放射状に広がり、農地も中心に向かって筋状に細長く切れ込んで、緑地と農地が極端に細い帯状の縞を作っているのが何とも珍しい。しかし、どうやら九州には似たような場所が他にもあるようで、この海獣の胴体にあたる多良山地や、大分県の丸い半島・国東半島はその典型だ。でも、他の所はここまできれいな帯状にはなっていない。

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  島原半島の真ん中を縦断している国道389号線は、多少の曲折部分を除けば、雲仙岳付近までひたすら同じ方角に上り続け、最高地点を越えるとさらにまたひたすら下り続ける、長い長い坂の一本道だ。この国道は、半島の南岸に達すると、海上区間を経て、熊本県の天草(下島)に続いている。(国道に海上区間があるなんて知らなかった。)島原半島から天草までは、最短で4.5㎞ほどの距離だ。

 半島が三股に分かれる付け根の部分にあり、有明海大村湾の両方に面している東西に長い街が諫早市だ。東の有明海側にある凹んだ部分が干拓事業でもめている諫早湾だが、その干拓事業によって半島の美しいくびれは損なわれつつある。地形として俯瞰的に見た場合、これはかなり残念に思われる。(後半に続く)

( ※ 本土とは、北海道、本州、四国、九州、沖縄本島をさす。)